AFF 2004 その5


次は、塩崎さんのところで修行中の若手有力製作家のお一人、浜本さんです。 塩崎さんの工房からは数多くの実力派が輩出されていますね。マーティン型ではすでに高い評価を得ていますが、 近年はフィンガースタイル向けのモデルも次々に発表されている意欲的な工房です。 今回浜本さんは、2種類のモデルで参加されました。まず一本目はこれ、Dカッタウェイです。 基本ラインはほぼDモデルですが、微妙なシェイプは異なっているようです。ラウンドショルダーの、 穏やかな表情に見えます。そしてやはり木象嵌の優れた技法はこのギターにも生かされています。 ロゼットをはじめ、バインディング、パーフリングにも色とりどりの材が用いられているので、 webのような解像度の低い画像表示では大変泣かされる?wデザインです。ジャギーが出てたらごめんなさいw。 ブリッジはM.Shiozakiにも見られる大きなRのついたネック側に、全体はやや長さの長い細目のものです。 画像ではよくわかりませんが、カッタウェイのネック部分とボディ周りではテーパーを変えてあり、 非常に凝った技法が用いられています。ネックヒール真ん中アタリからカット部にかけて湾曲した線が 見えると思いますが、ここでテーパーが切り替わっています。

バインディングそのものはローズウッドで、細いメイプルの経木がアクセントです。 トップはオーストリアスプルース、サイドバックはローズです。    
これはそのロゼッタ周り。後ろにノンカッタウェイも見えます。 大変細かな象嵌が目をひきます。幅の広い部分に使われているのは、スポルテッドメイプルのように見えますが これも新しい材の「グラナディロ」です。大昔、70年代などには合板の化粧板として一次使われたこともありましたが、 近年は優れたギター用として供給されるようになりました。模様の美しい材のようで、今後に期待です!

指板端低音側が斜めにカットされていたり、ポジションマークが木象嵌のラインだったりと、細かいところにも いろいろな工夫が見られます。
こちらはノンカッタウェイです。なかなかまとまりのあるシェイプですね。 特徴の木象嵌もおそろいです。ブリッジは密な素材の非常に綺麗なハカランダで、黒くて良い材です。 ところで、エボニーとローズ系のブリッジに大きく2分される今日この頃ですが、音的にはエボニーの方が やはりかっちりした切れのある音系の感があります。対してローズ系は少し硬さがとれた深い音のように思います。 もっとも、形状、重量などがすごく重要なので単に素材だけのことではないですが。

やはりこのギターの特徴は、「コンター」ですね。とても美しく仕上がっていて、自分のにも絶対つけよう! と思いましたw。実際弾きやすいですし。トップへの影響はもちろんあると思いますが、一つには 重低音の迫力よりも、抜けの良いかっちりした低音が欲しい場合、低音側のサイズを調整するのも アプローチの一つだと思います。大きければ全体の面が大きく動くので音量には大変有利です。 一方、振動は必ず「動いたら戻る」事が必要なので、10動いたら10戻る、5動いたら5戻るというのが基本です。 その場合、大きいと戻りも時間がかかりますし、全体を動かすのもエネルギーが必要です。 小さいとレスポンスが良くなるのはこの辺りが影響するわけですが、トップ材の硬さ、ボディ厚、ブレイシングによって 様々な音づくりが考えられます。コンターも、演奏性、装飾性とともにトップの振動面積を変化させるという 役割など持ちつつ、製作家に取り入れられていくかもしれません。
こちらはノンカッタウェイのロゼットのアップ。グラナディロが綺麗です。 バックブレイスが少し見えますが、幅の狭いタイプは現代設計ですね。昔と違って、巨大な音量、できる限り大きな音、 という要求はもうありませんから、バックをどのような機能にして音づくりするかという点で大きく変化しました。 まずはバックの3,4番のブレイスの形状が変化しましたが、その後ブレイシングパターンそのものも変わり、 トップとの関係も変わり、トップのブレイシングも変わり、と、これまで「最良」と考えられてきた製作法が あくまで「一つの手法」になり、確定的なものではなくなりました。その点では、現在は本当に面白い時代だと思います。 実際のところ、ギターのブレイシング等に関しては昔Xが生まれる以前から様々な方法が試されてきたはずです。 それらは「大きな音」を得るためには不十分とされ、あるいは弦のテンションに耐えられず、と、 淘汰されながらXブレイシングの登場で一気に安定期になるわけですが、今現在のギター製作はまさに いろんな手法をもう一度試しながら新たな展開を模索しているのかもしれません。
話題の?w、パヤング後ろ姿です。とにかく柾目で真っ直ぐな綺麗な材が使われています。 前回も言いましたが、やはりかなりココボロに似た感じです。今回は特徴についてお聞きしてみたところ、 ローズより重く、固い材で、しなりはかなり少なく曲げづらい。音は固くなくやや丸みがあり、 ローズほど重たい感じはしない。ということでした。弾いた印象ではパリッとしたアタック感があり、 高域がきらびやかな感じです。巻弦の音の頭もしっかりしています。トップが固い材と言うことを考えても、 やはりローズにありがちなウェット感は感じません。バックの音への色づけがどれほどなのかが難しいところですが、 サウンドホールに耳を近づけてボディ内の響きを聞いているとけっこう反射がいい感じです。

ところでセンターのバインディングはエボニーでしょうか。カッコイイです!こういう感じは好きですね〜。 D-45のような細かいモザイクも良いんですが、ピン!とこのようなブラックストライプも渋い! 個人的にはこういったタイプが良いです。
さて、コンター部のアップですが、よく見ると本当にいろんな色のパーフリングが彩りを添えています。 基本的にはローズのバインディングですが、分岐部分辺りからローズとエボニーに分けられ、 その間にエボニーの板が貼られています。以前からこのコンターの製作方法に興味があり、自分なりに 考えていたのですが、今回良い機会なのでしっかりお伺いしました。

自分では、巨大なエボニーブロックを内側に貼り、それを削りだしていくというのを考えていました。 ラスキンのを見ると、えぐり取られたようなカーブでできていましたので、そのように考えたのですが、 最近のライアンの製作ではバインディングが大きくテーパーになっていくという形になっており、 明らかに手法が違います。浜本さんは、このコンターの製作に当たっては

「まずコンター位置を決め、ライニングをその位置までずらして貼りながらトップとサイドを接着。  その後不要部を切り取って必要な形状にライニングを仕上げ、エボニーの板を貼ってバインディング加工する。」

という手法だそうです。実際には削る方法もあるそうで、後に紹介する亀岡氏は削る方の手法でした。 ギター全体の重量を考えると、このように後で板を貼る方法の方が軽くなるので、バランスから言うと有利 かもしれないと言うことでした。もっともどちらが良いと言うことではなく、たとえばコンター部にRのへこみを つけるとか、幅が変化するようなデザインなどは削る方法でないとできないと思われますので、 全体のデザインやカット位置、後処理の有無なども関係してくると思います。 以下にその手法を図解ですw。
では、お聞きした範囲でこんなのだろうという説明をw。
まず、通常の製作と同じように組んでいきますが、コンターの部分となる箇所のカーフィングを 図のようにあらかじめずらして貼っていきます。最後に貼るエボニー板を接着するための、いわばのりしろを この時点で用意しておくわけです。
つぎに、不要となる部分を切り取ります。この時点ではカーフィングはエボニー板の角度とは 違っているはずなので、角度をきっちりと合わせながら削っていきます。
最後に化粧板であるエボニーを、あらかじめカーブに沿って曲げておき、最終調整しながら カーフィングに貼りつけていきます。完全に接着が完了した時点で、バインディングの溝掘りに入る 工程となります。ただ、斜めになっているので、通常のドレメルでの作業が可能かどうかはわかりませんw。 たぶんどえらい苦労があるんではないかと…w

間違っていてもいじめないでください(お願い!
サウンドホールからバックブレイシングなど。セラックできっちり目止めされています。 背は高いですが、幅は狭く、特にエッジへ向けての削り込みがしっかりあり、 バック板の剛性を上げながらも、全体は動きやすくすると言う方向なのかもしれません。 すこしXブレイシング交点ネック側の小さいブレイスが見えますが、近年この部分が かなり大きいものを見かけます。効果の程はわかりませんが、 弦のテンションに対してのブリッジ側の倒れ込みには強くなりそうなのと、 サウンドホールがあることで剛性が下がる分、補強の意味がありそうです。 また、X交差部分の剛性を上げていくとアッパー、ロアー側の分割振動は抑えられる方向に働きます。 (0.0)モードという、トップ一枚が全体で動くモードに振られるような気がするので、 たとえばボディサイズが小さい、容積が小さいギターが低音域の豊かさを稼ぐには効果的かもしれません。

ところで、内部塗装については様々な説があり、「良い」という説、「良くない」という説、 どちらも見ます。良いとする説では、内部の反響が良くなる、湿度に対して安定すると言うのが多いです。 良くないと言うのは、経年変化に対する動きが阻害される、材が塗料で重くなるなどです。 あくまで個人的な印象では、極端な厚い塗装をしない限り反響についてはさほど影響はなく、 重くなるほどたくさんの塗料が使われていることは滅多にありません。乾燥割れに対しては塗装がある方が 耐性が高いでしょう。我が家の内部塗装のあるギターで見れば、やはり長年使っていると変化がありますので、 少々時間はかかるにせよ乾燥はしてきます。セラックでの目止め程度なら、全く問題なく、 利点の方が多いといえるかもしれません。
今回のギターのヘッドデザインです。突き板の材はグラナディロだったかな?ホンジュラスだったかも(汗。 前回のはグラナディロとちゃんと記憶しているのですが…w。真ん中にエングレーブのあるデザインはどうやら 決定のようです。あ、でもヘッドに豪華なインレイ入れるときはどうしましょうw。 ヘッド全体はかなり小型化されていますが、ヘッドの軽量化を狙ったものでしょうか。 以前ある製作家にお伺いしたところでは、ペグの重量(というかつまみの材質)でも音は変化すると言うことなので、 ヘッドの質量、ネックの質量などもかなり影響すると思われます。一般的にフィンガースタイルのギターでは ウェヴァリーのようなヴィンテージスタイルのオープンバックペグが使われることはほとんど無いので、 その分ヘッドそのものの質量なども考慮されるのでしょう。

浜本さんのギターは高音が綺麗で、音の抜けが良い鳴り方をします。テンションはやや硬めの部類になると 思いますが、押弦は楽です。ネック仕込み角はそれほど大きくはないようですが、この辺りの作り込みはさすがです。 シーガルさんの切れの良さ、音のまとまりもそのままに、独自のデザインで進んでおられますね〜。 とてもオリジナリティのある綺麗なデザインのギターです。 新しい材も積極的に取り入れていますし、どんどんアイデアを形にしながら、いろいろ試していただきたいものですw。

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