アコフェス 2005

これがそのトルナボスです。通常は制作時に中に入れ込んでしまうため、完全な筒状になっているのが普通なのですが、 今回のこのギターでは後付けでできるように分割式になっています。材質はエゾマツ。 小さく見える穴は、後付けするときに必要なジグを使うためにつけられたもので、ネジなどではありません。 かなりバックの間近まで接近しているのがおわかりでしょうか。    
実際の響鳴筒としては、たとえばバスレフスピーカのような機能を考えると、 分割されていると筒内での空気の共振は起きません。なので、このギターの場合音の指向性などの部分に影響するのではないかと思われます。 実際に演奏していただいたのを対面して聞いていると、通常の場合音像はサウンドホール周りに定位することがほとんどですが、 このギターはずっとボディ寄り、ブリッジ辺りにあるように聞こえました。ある程度離れると気づかないのですが、 一定の距離まで近づいたときに音のかたまりがブリッジ側にずれるような印象です。不思議な感じでした。

音そのものは、私はクラシックギターの音にはあまり詳しくないのですが、柔らかくてカラッとした軽快な印象でした。 ウェンジの特性なのか、ローズのような重量感はあまり感じませんでした。音が涼しいというのか、ふっくらしているけど重くないと言うか。 いつも思うのですが、ナイロン弦のやさしい音色はとても気持ちがいいです。一本は欲しいところですw
ブリッジはローズに、やはりウェンジの飾り板。白い部分は象牙です。 実はこのブリッジ、さる老舗ホテルの椅子から作られているそうです。もうず〜〜っと昔、大西さんがまだギターを作るなど ご自身で考えもしなかった頃に入手した、当時すでに何十年もたったふる〜〜い椅子だそうです。廃棄するというので譲り受けたそうですが、 まず「ローズの椅子」というのに驚かされますし、それがブリッジとして甦るというのも不思議な因縁ですね。

そういえばクラシックギターでは、必ずしもブリッジプレートがあるわけではありません。このギターは元々の設計になかったので、 やはり入っていません。多くの場合クラギのブリッジプレートはスチールと違って横に繋がっているのではなく、 ファンブレイシングの間にスプルースの小片をあててプレートとします。製作家によって様々で、同じ製作家でもあったり無かったりするので、 なかなか面白いことだと思います。
ネックヒール周り。ヒール部分は木目をしっかり合わせてあり、一見接いであることがわかりません。よくご覧下さいw。 ネック部分と、3分割されたヒールが接着されていますね。ヒールエンドはもちろんウェンジですが、スパニッシュの作法とは違って バックの延長がヒールに来るのではなく、スチールのように別材の小片をつけるという形です。この辺りはネックのジョイント方法などによって 区分されているのだと思いますが、もうちょっと勉強しますw

今回の大西さんのギターではトルナボスという特殊な構造を見せていただくことができました。興味深いディティールも多く、 クラシックギターの製法、アイデアはいまスチールにとっても貴重な情報であると思います。直接的に技法をそのまま使うだけでなく、 アイデアや、構造へのアプローチの仕方など参考にする点は数多くあると思います。また、特に近年の音の傾向で、ギターそのものの表現力や 個性などが重視されています。その結果、よりクラシックギター的な音の表現に近づいているのかもしれません。 幅広くギターの音を考える、良い機会をいただきました。

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