Tiffany

ティファニー・モヴァード

2個目は、ル・クルトと同じく半回転自動巻のモヴァードです。といっても、このモヴァード、普通とちょっと違いますね。
なんといっても、メーカー表示がない(笑。かわりにTIFFANY & COとあります。そう、これは、ティファニーのOEMなんですね。
昔から宝飾品メーカーは、時計メーカーのモノを自社ブランドで販売することはよくありました。ブッヘラーとかブシュロンなどは、
いまでもよくアンティークモノで出回っています。ティファニーも実は大変多くのダブルネームを作りました。これはダブルネームとは言えず、
宝飾店名オンリーですが、既存のモノに刷り込んで作ることもしょっちゅうで、特にロレックスのそれは有名です。ただ、そのせいで
贋作も多く、よほど見る眼がなければ名前だけ入っているダブルネームモノはお勧めしません。幸いこれは、贋物を作る必要もないほど
人気がないので(笑、本物です。tempomaticは、モヴァードの初期の自動巻につけられたペットネームで、こつんと当たる感触を
よく表しています。本当は中を開けたかったのですが、工具がいま見つからなくて、また後日機械をお見せしたいと思います。

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ここで少し秒針の位置についてのお話を。現代はセンターセコンドの時計が多いのですが、実はスモールセコンドの方が構造は簡単です。
4番車から直接取れば秒針になるのですが、他社が全てスモールセコンドであれば、誰だって3針を真ん中にしてみたくなりますよね?(笑。
そこで、4番から出車というギアを通してセンターセコンドに持っていくのが、初期の中三針といわれるモノでした。
なので、そういう時計のムーブメントを見ると、ブリッジの外に一枚ギアが飛び出していて、それが真ん中の針と繋がっているのがわかります。
例でいうと、「世界の腕時計62」P178に、モヴァードのCal473SC(SCはセンターセコンドのこと)が載っていますが、
一枚だけ地板の外にギアが飛び出しているのがおわかりでしょう。これが出車です。このギヤが真ん中の芯から飛び出した秒針の軸に
力を伝え、回します。元々は隣の470が基本だと思うのですが、そこに出車と芯押さえを追加したのが473SCのように見えます。
ムーンフェイズがあるので、470SCとはならなかったのでしょう。473SCはよく見ると、テンプの隣の地板から薄い金属板が芯まで伸びていて、
軸を押さえているのがわかるでしょうか?P176の470と比較すると良いかも知れません。(もし本をお持ちでなければ、お知らせ下されば
期間限定で画像をアップします。なにぶん著作権がらみなので、あんまり勝手には使えませんので。できればバックナンバーをお買い求め下さい/笑)

その後、高級メーカーでは出車をつけるにしても、そのまま出すのではなくブリッジで受けたりするようになりますが、(出車用の追加のブリッジを加える)
最初からセンターセコンド用の設計が作られるようになり、出車という考えはなくなります。技術革新の隙間の、ちょっとしたあだ花のような存在かも知れませんね。
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さて肝心のこの機械の精度の方は、いまでも十分実用に足る、極めてイイものです。オーバーホールなどしたいのですが、なにぶんマイナーメーカーなので
どこに持っていって良いやら…(笑。実力もある、すごくいいメーカーなんですけどね。
この時計はだいたい1940〜50年代頃でしょう。オーソドックスなデザインですが、ラグの角や仕上げになかなか凝っています。
ケースは、知っている人が見ればすぐモヴァードとわかるモノで、雑誌などにも頻繁に登場します。径は意外に小さく、32mmです。

ところで、最近の「世界の腕時計」はムーブメントの写真がごっそり無くなりましたねぇ。何か不都合があるのかも知れません。
資料性の高いよい雑誌だったのですが、ここのところどんどんムーブの写真が小さくなり、ついには載らない号まで…。
昔は大きく機械が載っていて、そのきれいな写真や機械美に見とれていたモノですが、ここ何号かは全くです。どうしたんでしょう。



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