アコフェス 2005

今回、構造的な部分ではもっとも印象的ではないかと思われるギターをご紹介です。 白井さんは兵庫県で製作されている、いわば私のご近所さんなのですが、近年とても環境の良い工房に 移転されてますますその特徴的なアイデアが際だってきた印象です。

このギターはジョイント位置が非常に変わっていて、左右でボディに接する位置が違います。 いわば12.4〜13.5Fジョイントだそうです。サイズはOOクラスの形状ながらロァボディはOOO並み、 3Dカッタウェイに分割ヘッドなど、非常に多くのトライがなされている特別の一本です。 材も、アルパインスプルースにアフリカンブラックウッドというある意味最上の素材で構成され、 とても興味を持って注目していたギターです。    
バックからの一枚です。ご覧のように、バックからではカッタウェイは認められません。すべてトップ側の3次元処理で 演奏性を上げてあります。ここからでは同じ位置にジョイント部分があるように見えますが、実はサイドの板がスラントしていて 指板側では同じ位置にサイドがありません。かなり解説泣かせの構造ですw。 バックの板は非常に美しいアフリカンブラックウッド。サプもあざやかでコントラストがいいですね。 実はこのサプのパターンもデザインに取り入れられています。後ほどご紹介。ヘッド裏にはエボニーの突き板で、 ネックはとても弾きやすいロープロファイルの薄型です。
独特のボディデザインが、シンプルな装飾で際だちます。ブリッジ位置とトップの関係はブレイシングも含めてかなり 考慮されているようです。12.5Fジョイントなのでブリッジ位置はロァボディの中心に近くなり、サウンドホールとの 距離が開くことでXのホール側もかなり有効に機能するはずです。14だとどうしてもホールが近くなり、交点のすぐ上が 振動板のない穴になってしまいがちです。指板との関係もあり、このあたりの設計はそうとう難しいと思いますが、 デザイン、視覚的にも大変うまくまとめられていると思います。
バックです。トップ側から見るほど全体のボディバランスは、特殊なものではないことがおわかりになると思います。 アフリカンブラックウッドの木目が非常にきれいですが、実機ではもっと真っ黒でエボニーのようです。 この材は気乾比重も1.0を超えていてエボニー並みですから、水には沈みます。硬さも同じくらいあります。 タップしたときの音が甲高く金属的で美しい響きになるようです。もっとも、私が叩いたことのあるのは切れっ端なので、 ひょっとしたら大きなものでは違うかもしれません。いずれにせよギターの材料としては非常にいいものだと思います。 CITESの関係と良い材の枯渇によってブラジリアンローズが非常に使いづらいですが、このアフリカンブラックウッドは 単純に大径材がないという理由で、ブラジリアンと同じかそれ以上に入手しづらいです。
これまた特徴的なヘッドです。真ん中にスリットが入って左右を分割していますが、あいだをエボニーの丸棒でつなぎ 剛性をアップしてあります。左右の弦の支持点を分離すること、ヘッドの音叉型のUが振動に影響すること、を狙ったものだそうです。 ペグの配置は横方向への応力が少なくなるような配列で、バランスも良い感じです。ゆくゆくはこのヘッドデザインを オプションにできればと考えているそうです。ところで、中に入っているエボニーの丸棒、両側にしっかり食い込んでいるわけですが、 さてどうやって入れたんでしょうね。
これはヘッドの横からの画面ですが、サイドも別材で囲まれ、マホガニーを包んでいます。私はこれを「チョコアイスヘッド」と名付けました (勝手にw。アイスクリームのチョコのバー、断面こんな感じじゃないですかね?w。ヘッド側は厚めのエボニーで、 裏側は3レイヤーのエボニー他。こちらはボリュート部分がカーブにカットされるのでレイヤー部が見えてきれいです。 ちょっと注目なのは指板のRが比較的大きいこと。ネック幅(ナット44mm)と厚さの関係でこのようにする方が弾きやすくなったと言うことです。 ペグは定評の510。ゴールドはこういう黒い材にはなかなか引き立ちますね。
サウンドホールからロァー側を見たところ。どのブレイシングもさほど高くなく、ボディサイズがやや小さめのこともあってか、軽く振動しやすく 組まれているようです。深さはD並みにあるので、容積はけっして少なくありませんが、トップの面積が小さいことで工夫されているのでしょう。 特にバックのブレイシングは材が固いこともあってか、かなり軽めのように見えます。
ネック側をのぞいたところ。ネックブロックはきれいにRがつけられた独特の形状です。1番のバックブレイスは高めのしっかりしたものですね。 バックセンターのカーフィングは非常に背の低い板状のもので、これもちょっと独特です。その分バックは動きやすく、1枚の板としての動作も 狙いにあるのかもしれません。

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