アコフェス 2005

ここで、私たちスチール弦の奏者ではあまり取り上げられることのないナイロン弦の製作家をご紹介しましょう。 近年ではご存じのように、ナイロン弦の古くからの製作方法などもたくさんスチール弦のギターに取り入れられています。 これまであまりにもマーティンの影響が強く、 たとえばワンピースネックやダブテイル等はその代表ですね。それぞれにはメリット、デメリットもありますがその解説はさておき、 今回とても興味深いトライをされている方がいらっしゃいました。ファーニスの大西さんです。

今回はクラシックギターのトーレスのモデルと、19世紀タイプをお持ちでした。 今回はそのトーレスモデルをご紹介します。 設計はクラシックギターの有名な製作家である「アントニオ、デ、トーレス」の設計FE-19をそのまま製作。トップはイングルマンで、 サイドバックは珍しいウェンジです。塗装はすべてシェラック。伝統的な製法と新しい材をミックスした興味深い一本です。    
バック側です。ウェンジの3Pバックに、スカーフジョイントのネック。材はマホガニーで、綺麗な杢が見えます。 実際にはウェンジはこの画像よりはもっと真っ黒で、木目は明るい部分と黒い部分が比較的はっきりしています。 実機は真っ黒なので重そうに見えますが、このギターの重量は非常に軽く作られています。
よく目の詰まったイングルマントップです。ロゼッタはやはりトーレスのものでしょうか。

さて、ここでサウンドホールにご注目。このギターの最大の特徴、「TORNAVOZ(トルナボス)」をご覧下さい。ギターの雑誌をよくご覧になる方は、 村治佳織氏のギターのサウンドホール部に、なにやら筒のようなものが入っているのを見た人もいらっしゃると思います。 あれが、「トルナボス」というものだそうです。今回初めて教えていただきまして、一つ賢くなりましたw。 文字列を見ると、どうやら「TONE」に関連する構造かと思われるそうです。共鳴筒といいましょうか。 そもそもこの構造を作ってみようと思われたのは、音量や音質にどのような影響があるかを知りたかったからだそうで、 結果的には 「音に統制感が出た」「音量は特に上がらない」「遠達性は良くなっているようだ」という印象を持たれたそうです。
バックのアップです。今回ウェンジという、あまり使われることのない材を選ばれた理由は、近年クラシックギターでも使われる例が出てきたこと、 また、ブラジリアンに近い特性があるといわれていることなどからだそうです。私も以前からこの材には注目していましたが、クラシックの世界でも 使われはじめているとは知りませんでした。

早速使ってみた印象をお伺いしました。
「できれば二度と使いたくない」… … 
えぇっ!!??マジデスカ!!

理由は、大変よく狂うんだそうです。そうなのか…orz。そのため非常に扱いづらく、また、材の中にシリカが多くあるため カンナの刃が盛大に欠けることも困った問題の一つだそうです。かなり何度も研ぎ直しを余儀なくされ、そういう点でも扱いづらいとのこと。 う〜〜む、やはり使ってみないとわからない事というのはたくさんあるのですね。以前素材をたたいてみた印象はいい感じだったんですが…。 音そのものはなかなかレスポンスも良く、からっとして抜けのいい感じに作られていましたので、素材としては良いと思います。 しかし作りづらいのか…。それは困った〜w
ヘッドです。ヘッドベニーヤもウェンジ。ウェンジは黒と茶色の木目がはっきりしていて、板目取りにするとかなり豪快な 木目になります。装飾的な使い方もできるのと、樹木そのものがかなりの大木になり大径材が入手しやすいです。 なのでギターの板にも製材しやすいのですが、今回のお話でなかなか難しいものと知りまして、いや〜、うまくいかないものですねぇ。 ところでこのペグはシャラーなのですが、トーレスの設計では通常の、上下に装飾のあるペグではおさまらず、いろいろと探して このペグになったそうです。ということは一般的なクラシックギターのヘッドよりやや短いのでしょうね。
ブヘッド裏。ジョイント面が見えます。ご存じのように、スカーフジョイントは同じ材をヘッドアングルの角度で 斜めに切り、ひっくり返して接着、ヘッドを形成します。実際にはワンピースネックより木目の断列が無く、強くなります。 また、近年ではヘッド裏に別の材の板を貼るものが多く見られますが、このジョイント部分をサンドイッチしてしまうことで いっそうの強度を稼ぐことができ、デザイン的にもいろんな工夫ができて見ていても楽しいですね。

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