アコフェス 2005

さて、ついに今回のご紹介も最後となりました。御大塩崎さんのシーガル/M.Shiozakiです。 ご存じのようにマーティンの研究から始められ、そのマーティンスタイルのギターはシーガルとしてすでに絶大な定評のある氏ですが、 ここ何年かはフィンガースタイルモデルにもたいへん力を入れておられ、M.Shiozakiブランドは完全なオリジナルデザインを 持ち、打田氏などの使用でも有名になっています。 ここにご紹介する「フリースタイル」(以下FS)モデルもそのラインの一つとなります。ボディ形状は今回はM.ShiozakiのF-1タイプ。 フリースタイルとは、まさにそのとき塩崎さんが作りたくなったものを、様々な技法で作るため、決まったモデルの仕様というものがありません。 今回のものはF-1を基本に、様々な特殊な技法で作られているスペシャルな一本です。

ボディパーフリングはトップにアヴァロンが入り豪華なのですが、全体的な印象は派手さのない落ち着いた高級感のあるものです。 バインディングや各部の細かな作り込み、派手なポジションのない指板などがそのように感じさせるのかもしれません。 このギターはトップにオーストリアスプルース、バックはマダガスカル産の「ボイス・デ・ローズ」です。    
バックからの画像です。非常にクリーンな印象で、仕上げや作りの良さが感じられます。 さて、あまり耳にすることのない「ボイス・デ・ローズ」ですが、海外のサプライヤーではときどき目にします。 ネック材としても売られていたり、ギター用としては比較的最近のものですが、マダガスカル産と言うことは初めて知りました。 マダガスカルロースといえばハカランダに似たスパイダー杢のような目のものを想像すると思いますが、この材も同じくマダガスカルで 産するため、今回はマダガスカルローズという紹介になったようです。この材はご覧のように、非常に目の細かい真っ直ぐなもので 派手な模様はありません。特性としてはインディアンローズより固く、くせがなく使いやすい、音は少し明るめのパリッとした感じ、とのことです。 木目も真っ直ぐで素直ということですから、ギター用材として有望な材になるかもしれませんね。 インディアンローズの少しダークな部分を無くしたい時などいいかもです。
見事にまとまったボディシェイプとアヴァロンがきれいです。ブリッジはハカランダ。上下に大きな緩やかなカーブを持つ独特の形です。 ピン留めでストレートなサドルと、このあたりはオーソドックスな手法で作られています。

さて、ブレイシングですが、このギターではレイアウトは特別なものではなく、基本的なXを踏襲しているそうですが、 各部材を通常よりは細くて高く、真っ直ぐな形状でシェイプしてあるそうです。特に2本の斜めに入るブレイシングは 意識的に高く細いものにしているそうです。そして各ブレイシングをそれぞれホゾ組みで組み合わせることによって、軽くても トップに十分な強度があたえられています。また、トップ全体の動きもこれにより強くなると思われます。 これらはもちろんトップ材のスティッフネスにも関係しますが、軽く反応の良い音づくりの方向なのでしょう。
バックですが、ボイス・デ・ローズの詰まった木目が見事です。真っ直ぐで癖のなさそうな感じですね。 近年はこうしたものが非常に少なくなってきていますので、もちろんこれは良いものを選んで使われていると思いますが、 材選びの上でこのようなものが使えるのは重要なことです。インディアンでもこういうのはまず見かけません。 日に焼けると色がもっと濃くなるタイプのように見えます。ココボロやパオロサ、パヤングなどはかなり色が変わるので 塗装の前工程が難しいですが、 新しい用材はそのあたりもどのような変化があるのか興味深いところです。
ヘッドには細かな目のコブ材が使われていて、非常に不思議な模様を描き出しています。 ペグ配列はオーソドックスですがそれぞれが干渉するようなことはありません。ヘッドシェイプはすっきりとしたデザイン。 バランス良くきっちりとまとめられています。
さて、今回このギターの大きな特徴の一つが見られるカットです。といっても解説が必要ですがw。 実はこのギター、ヘッドがクラシックギターのハウザースタイルで継がれています。クラシックギターというと、スカーフジョイントを 思い出す方もいらっしゃると思いますが、このギターは単純に斜めに切って裏返すジョイントではなく、ほぞを切ってその形状を 三角形に整形、それをヘッド角と合わせてボリュートを整形する、非常に手の込んだ、高度な手法で作られています。 ナットの部分にパーテーションラインが見えますが、ボリュート部はその部分が継ぎになっているので切れ目とはわかりません。 教えてもらわなければちょっと気づかないほど見事につながっていますね。
カッタウェイ部分。フローレンタインのスタイルにダブテイルジョイント。ここは手慣れた熟練の手法です。 バインディングなどはすべてウッドで、品質感があります。さて、このギターのもう一つの特徴、レイズドフィンガーボードとでも言いましょうか、 ネック仕込み角とともに行われる特殊な手法が見えます。普通では指板はボディジョイント部ではそのままボディと接し、それ自体が直接ボディに 接着されています。ところがよくご覧いただくと、このギターでは指板の下に一枚の材が入っています。 つまりかなりボディから指板が持ち上がっていることになりますね。 これは、後ほどご説明しますが「ネックジョイント角」「トップドーミング」などとともに、とても興味深い手法であると思います。 いろいろな難しいハードルを、この技法を組み合わせることによってかなり上手く解決できる可能性があります。
ヒール側です。ヒールはかまぼこ型でヒールエンドにはカーリーメイプルの板を突き板にし、ボディバインディングとの連続性を アピールしています。バックのセンターにも同じくカーリーメイプル。バックにはよく見ると、メイプルの内側にローズが巻かれています。 このあたり、細かい部分での凝ったところがよくわかります。ちょっとわかりにくいですが、ヒールはクラシック様式で3Pのブロックを 継ぎ合わせたもの。もちろんスチールギターではトラディショナルな要素ではありませんが、ネック構成を考える上での伝統的な ハウザースタイルの踏襲、ということでしょうか。

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